神宮司和子 展 -終了しました-

会期:2017年9月1日(金)-19日(火)
11:00-18:00 水・木曜は休み








山梨県甲府市に住む神宮司和子の初個展。
統合失調症の病気が私に絵を描かせている、
障害者には障害者の心意気があるという神宮司。
描画を始めてからここ6年の間に描かれた
作品27点を展示いたします。








震える人
                         
神宮司さん
自分自身に、打ち震える人
病気あり、どうにも不安になってしまう時しばしば
褒められると、有頂天になりふわふわと漂い
そして崖からつき落とされる様な不安にまた落ち込む人
その落差の中で、薬の副作用からくる震える手を持ちて描画する
画紙には タバコの煙とコーヒーの滴

神宮司さんには、たくましき生きる力あり
甲府 愛宕山山麓の雑草生い茂る小さな家からヌウと現われる白髪のやまんばの如き眼に光あり
したたかな強さと、
人生への柔らかき姿勢保たんとして
孤独と、病気の原にて
紙とペン持ちて自らを解き放ち
コツコツと持続の作業をする

打ち震える魂と生きぬくたくましさに、祝福あれぞかし


川口園子(山梨・人ねっこアートワーク)








邂逅 ー出会いの時を迎える長い旅ー

 人生は長い旅とは云え、真の出会いはそう多くはない。時間には限りがあり、一期の出会いを気付かないまま見過ごしていることの方が遥かに多いからだ。神宮司和子さんは、たぶん私よりひとつ年下、昭和28年の二月生まれのはずだ。四十数年も前、山梨県のさる短大のキャンパスで彼女と遭遇していたはずなのに、出会ってはいなかった。もっとも後から聞けば、無理もない。国文科の学生だったが、半年ほどしかいなかったらしい。
 大学紛争が激化し東大の安田講堂籠城の実力行使がテレビ中継されていた頃、私が通っていた高校でも授業にならない日が続いていた。神宮司和子さんは、まだ高校生で甲府にいた。そして地元の短大に進学した。住んでいたのは、JR甲府駅の近く。ガスタンクのある踏切の山の上、英和学園がある裏手に当る。駅の構内放送も聞こえるくらいで歩けばすぐだが、車で行くにはずいぶん遠回りしなければならない。家族と共に、ごく平凡に暮らしていたのだろう。だが、時代は目まぐるしく動き出した。

 デザイナー、イラストレーター等々、ともあれ新しい横文字が若者を惹き付けた。理由等ない、それが時代の気分と云うものだ。東京の美術専門学校へ日大の芸術学部へと歩を進めたが、どれも資金が足りず中途半端のまま時が過ぎて行った。やがて来るバブル経済に向け時代は混沌としていた。憧れの仕事への挑戦や異性との出会いを重ねながら、少しづつ少しずつ精神は蝕まれて行ったのだろう。今から想うと、かなり深刻な状況になるまで病状は静かに進んで行った。時代は、三十年ほどあっと云う間に過ぎて行った。気が付けば、親も兄弟も亡くなり郷里にひとり住まいの身の上となっていた。今どき統合失調症の薬の服用は珍しくないが、かなりの長期に渡るはずだ。

 神宮司和子さんが現れたのは、坂本泉さんが主宰する甲府のアートのフリースペース・AIRYであった。展覧会を見に来た白髪の鬼女を、どこかに捨てて来た我が分身を見るようだと坂本は告白した。私も、そう感じたひとりである。時代が変転する中で脱ぎ捨て忘れ去ろうとして来たもの。それはいったい何なんだ!ぐっと、何か感じざるを得ない。それからだ。それぞれの、新たな模索が始まった。

 一緒に皆で展覧会をすること。個人的な手紙のやり取りをすること。AIRYの話題の客人となった彼女。ふとしたきっかけで、私は俳句と絵入りの短歌の往復書簡を一年ほど続けることになった。奇妙な片目の女のイラストが、何と毎日届いた!そして、高橋辰雄第一句集としてまとめられたのが「隻眼の鬼」である。私は難病で体調を壊し医大の眼科病棟に臥せったまま、何とか上程にこぎつけた。句界の住人には訳の分からないヘンテコなものだろうが、ともあれ句集である。詩人の中村みゆきが、おもしろい解説を試みているので、この三者のTRY-UNGLEを是非お楽しみ頂きたい。

 偶然ながら、どこか必然とも思われる経過。神宮司和子さんの営みは次第に広く知れ渡る様になった。まずは、嬉しい事態だろう。障害者のアートに共感する奇特な人。新たなアート表現を真剣に模索する者。流行に乗って一儲けを考える欲張り。カトリック教会の炊き出しの人達。強かな障害者と見ているらしい市の担当者。自分もまた同類の人間だと気付き始めた人。・・・実に様々な人達が、神宮司和子さんの周りに集まり始めた。狼狽えたのは、むしろ彼女の方だった。皆さんにご迷惑をかけたくないと、しきりに電話をかけて来る様になった。
 
 人は長い旅を経て、真の「私」に出会うのだろう。出会いには「他者」を必要とする。それぞれの「邂逅」の場である様な、アノニム・神宮司和子展であって欲しい!


高橋辰雄(美術家・ライター) 2017/8/2