会期:2021年8月1日(日) - 29日(日) 12:00-17:00 水・木曜休み
アノニム的メキシコ民芸店開店に寄せて
2018年2月メキシコに行った。ちょうど前回の冬季オリンピックが開催されていた時で、私はその年のオリンピックを1度も見ていない。友人の案内で、町のよろず屋のようなところへ行ったり、市場へ出かけたり、お土産屋や公園のフリマのようなものまで、たくさん歩いて、いろいろなものを見た。そこここで出会ったメキシコ民芸は日本で見ていたものよりももっとずっと素朴で、「手仕事」という言葉で表されるものよりももっと「手」に近い感じがした。
案内してくれた友人である村井由美子さんはメキシコに住んで10年を超える。彼女はそこで染色をし、織物をしながら暮らしている。その年月を経たからこそ感受される「メキシコらしさ」があるという。たとえばそれは白黒はっきりつけないことで、曖昧さの美学と言えるそう。バスが何時何分に出発するのか人に聞いても、○分後だよという答えが、人によって数字が異なる。それは場所を尋ねた時も然り。あと○mだよ、と何人かに言われてもなかなかたどり着けないこともしばしばあるらしい。そういえば、私たちがメキシコシティで路面電車に乗っていた時も、急に乗客全員降ろされたことがあったが、乗務員からのアナウンスはなく、文句を言う客もいなかった。村井さんが乗客の1人に尋ねたところ、電気が切れたらしいという情報を得た。しかし、ただ適当でいい加減なのではなく、他の市バスが走っているバス停で降ろされるあたりが「物事の進み方が想像以上に大きな歯車で回されている感」を感じると村井さんは言う。
もう1つの思い出はサン・ミゲル・デ・アジェンデのおもちゃ博物館に行ったことで、そこには大小さまざまなメキシコ各地の民芸品(というかなんというか)が並んでいて、どれも本当に素晴らしく心が宙に浮いた。ルチャリブレのマスクや骸骨の人形などメキシコらしいものに交じって、13歳の人が作ったという土物の動物が幾点か並んでいた。おもちゃコンテストみたいなので入賞したものらしい。民芸品と言っていいのかどうかも分からない。作品なのかもわからない。とにかくただただ親密で濃かった。他にも、おままごとに使うようなミニチュアの家具や人形もたくさんあり、精巧でありながら抜けていて、親が子に作ってあげたもののような風情を醸していた。
メキシコというと原色でカラフルな民芸のイメージがあり、人々も明るく愉快そうな気がするのだけど、そうとは言い切れない面が多分にあるのだそうだ。今までのメキシコ民芸とは一味違った、私がメキシコで見た、より手に近いメキシコ民芸的なものを展示してみたいと思った。そして、カラフルだけじゃないメキシコの美学のようなものを知ってもらいたいという村井さんに多大なご協力をいただき、今回の展覧会を開催できる運びとなった。
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というわけで、お土産屋さんで見ることさえ難しそうな、近所のおじさんが作りました!といった風情の「アノニム的メキシコ民芸品」(250点以上)が、8月の1か月間、アノニム・ギャラリーに並びます。